HAQ
HAQ(Health Assessment Questionnaire)とは、慢性疾患患者の身体的要素としての機能障害の程度を評価するための患者自身が行うアンケートのことです。慢性疾患における診療の第一の目標は生命予後の改善であることはいうまでもありませんが、1980年代初頭から個々の患者が生活する上での質的な向上、すなわちQuality of Life(QOL)の改善が重要視されるようになりました。そのため、QOLを客観的に評価するいくつかの指標が提唱され、その中でも社会的、精神的あるいは経済的要素の影響が少なく、身体的な機能障害を主に反映するものがHAQです。HAQは日常生活で遭遇するさまざまな事柄についての20の質問からなり、それぞれについて「簡単にひとりでできる」から「全くできない」までの4段階で返答します。その結果から、機能障害の程度を表わす機能障害指数(Functional Disability Index; DI)を計算します。HAQはまず慢性関節リウマチ(RA)患者のQOLの評価法として作られ、その後全身性エリテマトーデスなどの各種リウマチ性疾患でも用いられています。RA患者における成績から、HAQ-DIは再現性が高く、従来から用いられている重症度や疾患活動性を表す指標とよく相関することが明らかにされています。そのため、HAQ-DIは単にQOLの指標としてだけではなく、疾患活動性の評価や治療効果の判定に広く用いられています。
強皮症では長年にわたり重症度や疾患活動性の適切な評価法がなく、多施設での共同研究や治療の効果判定が困難でした。皮膚硬化の程度を半定量的に表わすスキンスコアの有用性が最近ようやく確立されたばかりです。強皮症におけるHAQは、1991年にピッツバーグ大学のグループにより初めて報告されました。RAでのHAQをそのまま強皮症患者に用い、強皮症患者でも比較的高度の機能障害があり、HAQ-DIはスキンスコアと相関することが示されました。その後、1,000例を越える多数例でのHAQの経時的変化を調べた成績が報告されました。それによると、HAQ-DIが皮膚硬化の程度、心病変、腎病変、手指の拘縮、腱摩擦音の有無などと相関し、特に多変量解析では生命予後と最も強く関連する因子でした。また、HAQ-DIはスキンスコアと平行して変動し、D-ペニシラミンによる治療により減少することも示されました。したがって、HAQは特別な装置や専門家を必要とせず、安価で、簡単にどこでも行える強皮症の重症度や疾患活動性の評価法として広く認められています。アメリカやヨーロッパ諸国の強皮症専門医の間ではHAQはスキンスコアとともに標準的な強皮症の評価法としてすでに普及しており、強皮症に対する治療法の前向き試験の効果判定項目の一つにもなっています。
ただし、HAQは元来RA患者のために作られているため、質問の内容が強皮症の機能障害を的確に表わせない可能性も指摘されています。例えば、歩行や起き上がりの障害は強皮症患者ではあまりみられません。一方、強皮症にみられる末梢循環障害(レイノー現象、手指潰瘍)、消化器症状(胸やけ、下痢)、呼吸器症状(咳、息切れ)は従来のHAQに含まれる質問項目では評価できない場合が多いと考えられます。そこで、HAQの質問項目を改変したり、他のQOLの指標であるVisual Analog Scales(VAS)を併用することが提唱されていますが、これらの有用性については今後の検討が待たれます。
HAQの調べ方
添付書類[PDF]は、現在アメリカで進行中の多施設共同研究や新しい治療法の治験で実際に用いられているHAQのアンケートを日本語訳したものです。RAで用いられているものと基本的に同じです。添付書類2に英語の原文を示しますが、日本の生活習慣に合わない質問項目が含まれており、それらは一部改変してあります。
HAQではアンケートを患者自身に記入してもらい、その結果をもとに機能障害指数(HAQ-DI)を算出します。着衣と身繕いなどの8つのカテゴリーに分類した合計20の項目のそれぞれについて、「簡単にひとりでできる」は0点、「何とかひとりでできる」は1点、「人に手伝ってもらえばできる」は2点、「全くできない」は3点とします。各カテゴリー(着衣と身繕い、起立、食事、歩行、衛生、動作、握力、その他)の中の最高値をそのカテゴリーのindexとし、それらの平均値をHAQ-DIとします。
なお、これまで報告されているHAQ-DIはdiffuse型で1.0-1.2、limited型で0.5-0.8程度です。
参考文献
- Poole JL, Steen VD: The use of the Health Assessment Questionnaire (HAQ) to determine physical disability in systemic sclerosis. Arthritis Care Res 1991; 4: 27-31.
- Steen VD, Medsger TA: The value of the Health Assessment Questionnaire and special patient-generated scales to demonstrate change in systemic sclerosis patients over time. Arthritis Rheum 1997; 40: 1984-91.
- Silman A, Akesson A, Newman J, et al: Assessment of functional ability in patients with scleroderma: a proposed new disability assessment Instrument. J Rheumatol 1998; 25: 79-83.
- Clements PJ, Wong WW, Hurwitz EL, et al: Correlates of the disability index of the Health Assessment Questionnaire: a measure of functional impairment in systemic sclerosis. Arthritis Rheum 1999; 42: 2372-80.
- 鏑木淳一、川合眞一、桑名正隆、他: 全身性強皮症におけるQuality of Lifeに関する研究. 日本臨床免疫学会会誌 1991; 14: 626-32.