第4回強皮症研究会議プログラム SSc (Scleroderma Study Conference)
I. オープニング・リマーク(5分)
竹原和彦(金沢大皮膚科)
II. ワークショップ「当科のdiffuse型SSc初診例に行った治療方針」(口演7分、討論8分)
座長:三崎義堅(東大アレルギーリウマチ内科)
桑名正隆(慶応義塾大先端医科学)
1.菊池かな子、矢澤徳仁、尹浩信、玉置邦彦(東大分院皮膚科)
2.石川 治(群馬大皮膚科)
3.近藤啓文、渡部洋行、遠藤平仁(北里大内科)
4.藤井秀孝、佐藤伸一、永岡徹也、竹原和彦(金沢大皮膚科
5.川口鎮司(東京女子医大膠原病リウマチ痛風センター)
III. ACRレポート(10分)
菊池かな子(東大分院皮膚科)
座長:近藤啓文(北里大内科)
IV. 全身性強皮症におけるHealth Assessment Questionnaire (HAQ)の有用性について(20分)
桑名正隆(慶応義塾大先端医科学)
座長:近藤啓文(北里大内科)
昼食 11:50〜12:40
V. 一般演題(口演7分、討論8分)12:40〜17:15 (演題番号16〜20は口演5分、討論5分)
菊池かな子(東大分院皮膚科)
1.汎発性強皮症皮膚線維芽細胞における転写因子Sp1及びSp3の発現量,DNA結合性,リン酸化についての検討
汎発性強皮症皮膚線維芽細胞は,I型コラーゲン遺伝子の発現が亢進し,転写レベルの異常であることが知られている。また同遺伝子はSp1及びSp3によって転写制御されていることが知られている。両転写因子の発現量をnorthern blot法及び免疫ブロット法で,DNA結合性をgel shift法にて検討したが,強皮症線維芽細胞と正常線維芽細胞で差はなかった。Sp1のセリンリン酸化を免疫沈降法にて解析したところ,強皮症線維芽細胞ではSp1のセリンリン酸化が亢進していることが明らかとなり,Sp1のセリンリン酸化が強皮症線維芽細胞におけるI型コラーゲン遺伝子の発現亢進に関与している可能性が示唆された。
2.全身性強皮症患者皮膚線維芽細胞のタイプ・コラーゲンα2(COL1A2)プロモーターのin vivoフットプリント法を用いた解析
全身性強皮症患者皮膚線維芽細胞では・型コラーゲン遺伝子の転写活性の増加が生じていることがしられている。今回我々は、dimethyl sulfate(DMS)を用いたin vivo フットプリントを用いて、皮膚由来線維芽細胞のCOL1A2プロモータにおける蛋白(転写因子)-DNA結合状態について、正常人と全身性強皮症患者の間に違いがあるかを、正常人、強皮症患者それぞれ2例について検討した。抽出したDNAに直接DMSを作用させた場合と、細胞にDMSを作用させた後DNAを抽出した場合との比較では、これまで報告されている転写因子の結合部位やその他の部位に差異が認められたが、その差異の多くは正常人と強皮症の間での変化は明らかでなかった。しかしながら、-200bp近傍では正常人と強皮症の間で明らかな差異が認められた。今後さらにこの領域における詳細な検討を行う予定ある。
3.汎発性強皮症皮膚線維芽細胞におけるTGF-β受容体の発現亢進の機序についての検討
汎発性強皮症皮膚線維芽細胞は、正常皮膚線維芽細胞と比較してI型、II型TGF-β受容体の発現が亢進していることを我々は報告した。今回我々は5例の強皮症皮膚線維芽細胞および7例の正常皮膚線維芽細胞を用いてTGF-β受容体の発現亢進の機序について検討した。強皮症皮膚線維芽細胞は正常皮膚線維芽細胞と比較して2倍程度のI型、II型TGF-β受容体を発現していた。次に転写阻害剤であるActinomycin Dを強皮症皮膚線維芽細胞に加えTGF-β受容体遺伝子のmessage stabilityを検討したが、正常皮膚線維芽細胞の半減期と比して有意差はなかった。さらにTGF-β受容体遺伝子転写活性を強皮症皮膚線維芽細胞と正常皮膚線維芽細胞において比較した。以上の結果から強皮症皮膚線維芽細胞におけるTGF-β受容体の発現亢進がtranscriptional levelである可能性が示唆された。
4.強皮症患者IL-1α遺伝子の5'非転写領域のsingle nucleotide polymorphisms (SNPs)の解析
強皮症由来線維芽細胞(SSc Fb)は、正常線維芽細胞と異なり、構成的にIL-1αを発現していることを報告した。IL-1αが、線維化に重要であることも明かとなっているが、転写が常に亢進している機序は不明のままである。そこで、転写調節部位を含む5'非転写領域のSNPsを検討した。強皮症患者65例、健常人45例を対象とし、末梢単核球よりDNAを抽出した。転写開始部位を+1とし、-1437から+39までの遺伝子多型をdirect sequence法、PCR-SSCP法にて解析した。-1202(T→C)と-889(T→C)にSNPsが存在しており、強皮症患者では、ともにT→Cの変異が有意に高値であった。
5.強皮症(SSc)線維芽細胞における自己抗原PHETの発現レベルの検討
我々は正常組織では精巣にのみ高発現するPHETに対する自己抗体がSSc患者血清中に特異的に検出されることを報告した。今回、線維芽細胞におけるPHETのmRNA発現レベルを定量的PCRを用いて解析したところ、SSc病変皮膚由来株で正常皮膚由来株に比べてPHETの発現レベルが高かった。したがって、SSc病変皮膚の線維芽細胞における隔絶抗原のPHETの高発現が自己抗体産生の誘因となる可能性が考えられた。
6.全身性強皮症皮膚におけるヒスタミンおよびヒスチジンデカルボキシレースmRNA発現についての検討
全身性強皮症(SSc)の皮膚病変におけるヒスタミンの関与について検討した。SScの組織中ヒスタミン濃度および単位面積あたりのヒスタミン含有細胞数は正常人と比較して低下していた。SScにおける単位面積あたりのヒスチジンデカルボキシレースmRNAを発現している細胞数および細胞あたりの発現量は正常人と比較して上昇していた。SScの皮膚病変形成にヒスタミン代謝亢進が関与している可能性が指摘された。
川口鎮司(東京女子医大膠原病リウマチ痛風センター)
7.全身性強皮症患者の血清中IL-8、GROαと臨床病態との相関について
全身性強皮症(SSc)、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚筋炎(DM)患者および健常人の血清中IL-8、GROαを測定した。SSc患者のIL-8、GROαはSLE、DM、健常人に比べ有意に高値で、IL-8とGROαの間には正の相関が認められた。SSc患者において、IL-8は腎症状、%DLcoの低下と相関し、GROαは腎、心、筋症状、%DLcoおよび%VCの低下と相関した。
8.全身性強皮症における、Th1サイトカインであるIL-12の測定
Th1細胞への分化を強く誘導するIL-12の血清中濃度、末梢血単核球(PBMC)による産生能を全身性強皮症(SSc)にて検討した。血清中IL-12値はSSc患者で、健常人と比較して有意に高値であった。同様に、PBMCによる無刺激条件下のIL-12産生量もSSc患者では健常人と比較して有意に増加していた。血清IL-12高値群では、腎の血管抵抗の指標である腎ドップラーエコー法によるpulsatility index(PI)の上昇が、血清IL-12正常群と比較して有意に高頻度に認められた。さらに、血清IL-12値およびPBMCによるIL-12産生量はPI値と有意に相関していた。以上より、SScにおけるIL-12産生増強はTh1細胞の活性化を反映しており、IL-12の過剰産生が腎の血管障害と関連している可能性が示唆された。
9.全身性強皮症(SSc)患者由来末梢血T細胞の細胞内サイトカインおよびケモカインレセプター発現
SSc患者末梢血T細胞の細胞内サイトカイン及びケモカインレセプター発現についてフローサイトメトリーを用い個細胞レベルで検討した。diffuse cutaneous SSc、limited cutaneous SSc (lSSc)では健常者に比べCD8+細胞中のIFN-γ産生細胞の頻度が増加し、%DLcoと負の相関を示した。lSSc群でCD8+細胞中のCXCR3+メモリー細胞の頻度が増加していた。CD4+細胞では3群の間で細胞内サイトカイン及びケモカインレセプター発現の差を認めなかった。
10.全身性硬化症女性における胎児性マイクロキメリズムの存続とHLA解析
近年全身性硬化症(SSc) の発症に、母体循環中に残存する胎児性細胞マイクロキメリズムによるGVHD様反応の関与が考えられ、またその存続に母児のHLAが関係していることが示唆されている。今回胎児性マイクロキメリズムの存続が認められたSSc男児出産女性について、HLAとの関連をSSOP法により検討した。現在、母親末梢血のHLAを検討中である
11.抗Th/To抗体のRNase P構成蛋白に対する反応の多様性
抗Th/To抗体のRNase P構成蛋白に対する反応性を調べ、疾患特異性、HLAクラスII遺伝子との関連を検討した。抗Th/To抗体陽性21例(うち強皮症14例)のRNase構成蛋白に対する反応性は多様で、14、18、8例がそれぞれhPop1、RPP38、RPP30と反応した。hPop1を認識した14例のうち13例は強皮症で、12例はDRB1*1502または*0802を有していた。
12.抗ゴルジ抗体陽性の汎発性強皮症の2例
全身性強皮症は様々な自己成分に抗体を有することが知られ、抗ミトコンドリア抗体などの抗細胞質抗体の存在も稀ではない。2例の汎発性強皮症患者においてHep-2細胞を基質とする蛍光抗体法により、核周囲の細胞質に半月型に陽性所見が認められ、ゴルジ体に対する抗体の存在が示唆された。免疫電顕、Hela細胞の細胞質を抗原とする免疫ブロット法により検討を加えた。
村田秀行(筑波大臨床医学系内科)
13.肺高血圧合併強皮症の臨床的解析
肺高血圧を合併した強皮症(SSc)自験例22例の臨床的特徴について解析した。SSc発症からPH合併まで平均7.9年。18例は間質性肺炎を合併していた。抗U1-RNP抗体は10例、抗セントロメア抗体は4例で陽性であった。13例はSwan Gantzカテーテルによる肺循環動態の評価を行ない治療薬の反応性を確認した。治療は在宅酸素療法、PG製剤、Ca拮抗剤、抗凝固療法などを組み合わせて行ったが平均生存期間3.9年と予後は不良であった。
14.血清surfactant protein D (SP-D) による汎発性強皮症患者の肺線維症の評価について
汎発性強皮症(SSc)患者83例,正常対照群31例を対象として,血清SP-D値を測定した。SSc患者では正常対照群に対して血清SP-D値は有意に高値を示した。SSc患者において,肺線維症合併群は肺線維症非合併群に対して血清SP-D値は有意に高値を示した。また,血清SP-D値上昇群では正常群と比較して%DLco,%VC低下の頻度が有意に高率であった。以上より,血清SP-D値はSSc患者の肺線維症の評価に有用と考えられた。
15.MPO-ANCA陽性4例の検討
今回我々はMPO-ANCA陽性強皮症(dcSSc)4例について検討した.この4例では半月体形成性腎炎2例,心嚢水貯留と腎障害1例,肺病変1例でいずれの症例も病勢とMPO-ANCA抗体価が相関した.MPO-ANCAは急速進行性腎炎や肺出血などの血管炎症候群で認められるが,SScにもMPO-ANCA関連血管炎が合併し多彩な臨床症状を呈する場合があり,抗体価の測定が診断,治療の指標となると考えられた.
16.ステロイド治療により蛋白漏出性胃腸症の改善をみた強皮症の1例
44歳,女性.両手指の腫脹・硬化,顔面・両下肢の浮腫により当科受診.強指症を認め,抗Scl-70抗体 (-),抗セントロメア抗体 (+),alb. 2.3 g/dl,T.Chol. 330 mg/dl,尿蛋白陰性.入院後,皮膚生検にて膠原線維の増生を認め,上・下部内視鏡検査にてリンパ管拡張像やアミロイド沈着なし.99mTc-HAS-Dアルブミンシンチにて小腸からの著明な蛋白漏出を認めた.PSL 40 mg/dayからの漸減投与にて小腸からの蛋白漏出は消失し,血清蛋白も正常化した.
17.皮膚硬化の進展とともに自己免疫性血小板減少症をきたした全身性強皮症 (SSc) の一例
50歳女性。平成11年9月にSScの診断。平成12年7月頃より皮膚硬化が急速に増悪。9月より血小板減少が出現し、10月下旬には0.4×104/mlまで低下。破砕赤血球像や骨髄巨核球数の減少は認めなかったが、PA-IgGは著増していた。ステロイド大量投与により血小板数は回復、スキンスコアも16点から8点に改善した。SScでの自己免疫性血小板減少症の報告は大変少なく、皮膚硬化の増悪期に発症したことも含め、興味深い症例と思われた。
18.PUVA bath療法により症状の改善を認めた強皮症の一例
69歳、女性。約5年前からレイノー症状出現。平成11年12月より息切れが出現し当院を受診。初診時手指、前腕、顔面の皮膚硬化、舌小帯の短縮を認めた。抗Scl-70抗体陽性、呼吸機能検査で拘束性変化あり。手指、前腕からの皮膚生検では強皮症に一致する所見を示した。入院のうえ週に3回のPUVA bath療法を行ったところ約10回目の照射より皮膚硬化の改善を認めた。皮膚の病理組織学的およびMMPの活性について検討した。
19.下肢動脈閉塞を来し多血症、抗リン脂質抗体の関与が疑われた強皮症の一例
47歳、男性。1998年強皮症と診断。2000年9月4日より左膝から末梢のしびれと疼痛が出現、増悪した。Hb 20.0g/dl・Ht 60.6%と多血症を認め、APTT 57.8秒と延長。ループスアンチコアグラント(LAC)陽性。下肢血流ドップラーエコーで左膝窩動脈分岐部付近よりの血行途絶像と血栓様像が確認され、動脈血栓症が考えられた。多血症・LACの存在の関与等を踏まえ文献的考察を加え報告する。
20.抗topoisomerase I 抗体と抗セントロメア抗体を有する全身性強皮症の1例
65歳女性。昭和46年よりSScで当科通院。平成12年2月、右第2趾の黒色壊死の為、入院。入院時、レイノー症状、上肢・躯幹の皮膚硬化、強指症、手指屈曲拘縮、指尖部瘢痕、色素沈着、色素脱失、毛細血管拡張、舌小帯短縮、両下肺野線維化あり。入院後、右第2趾の壊死はさらに拡大し下肢動脈造影にて閉塞性動脈硬化症と診断された。抗topoisomerase I 抗体と抗セントロメア抗体の併存を認めた。両抗体の共存は極めて稀である。
VI. 特別講演 17:15〜18:30
「Scleroderma: An update on pathogenesis, organ involvement, management and treatment」
Carol M. Black, MD, FRCP Professor of Rheumatology Royal Free and University College Medical School University College London