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第1回強皮症研究会議プログラム

日時:平成10年2月28日(土) 13:00〜18:55

I. オープニング・リマーク(10分)

13:00〜13:10
竹原和彦(金沢大学皮膚科)

II. ACRレポート(10分)

13:10〜13:20
桑名正隆(慶応義塾大学先端医科学、内科)
座長:竹原和彦(金沢大学皮膚科)

III. 基礎研究(口演7分、討論8分)

13:20〜14:50
座長:桑名正隆(慶応義塾大学先端医科学、内科)
相馬良直(東京大学分院皮膚科)

1. 強皮症線維芽細胞における細胞内IL-1αの作用

川口鎮司、深澤千賀子、太田修二、高木香恵、杉浦智子、針谷正祥、原まさ子(東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター)

我々が報告した強皮症線維芽細胞(SScFb)の細胞内IL-1α発現異常が、SScFbのコラーゲン合成異常に関与しているかを検討した。sense IL-1αcDNAを導入した正常Fbでは、コラーゲン産生、IL-6産生、増殖能が増加し、反対に、antisense IL-1αcDNAを導入したSScFbでは、それらが低下した。以上より、細胞内IL-1αは、SScFbのコラーゲン合成異常に重要な役割を果たしていることが示唆された。

2.汎発性強皮症病変形成におけるTIMP-1の関与について

菊池かな子、門野岳史、玉置邦彦(東京大学皮膚科)

TIMP-1はMMPのインヒビターの作用の他、各種培養細胞に対し増殖刺激活性があることが知られてきた。発症早期の汎発性患者7例、正常対照例7例の前腕皮膚由来培養線維芽細胞を用い、線維芽細胞のTIMP-1に対する増殖刺激活性、TIMP-1発現を調べた。強皮症線維芽細胞のTIMP-1に対する増殖刺激活性は正常線維芽細胞に比して有意に高かった。また、TIMP-1の発現は強皮症線維芽細胞において高かった。

3.ヒトα2(1)collagen 遺伝子の転写制御についての検討

尹 浩信、玉置邦彦(東京大学皮膚科)、Maria Trojanowska (Medical University of South Carolina)

ヒトα2(1)collagen 遺伝子の転写制御について明らかにするため、そのプロモータ領域の解析を行った。正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いたin vitro及びin vivo footprinting法にて3領域にfootprint が認められた。gel-shift法,CAT assayにてfootprint ・(FP ・)領域には転写制御因子が,FP・および・領域には転写活性因子が結合し、この転写制御因子はFP・領域による転写活性を抑制するが、FP・領域による転写活性を抑制しないことが示された。

4. 全身性強皮症におけるエラスチン、フィブリリン発現の検討

佐々木哲雄(横浜市立大学皮膚科)

全身性強皮症(SSc)皮膚におけるエラスチン、フィブリリンの発現を免疫組織学的に検討した。対象は40から60歳代のSSc患者で前腕伸側生検皮膚の凍結切片を単クローン抗体を用いて免疫染色した。年齢、病型による差、限局性強皮症、ケロイド様強皮症などとの比較を行った。

5. B細胞シグナル伝達分子であるCD19の自己免疫への関与

佐藤伸一(金沢大学皮膚科)、Thomas F. Tedder(Duke University Medical Center)

CD19はB細胞に特異的に発現するシグナル伝達分子である。CD19を正常より3倍多く発現するCD19トランスジェニックマウスでは、B細胞の著明な活性化と自己抗体産生がみられた。従ってCD19はB細胞のトレランスの誘導・維持に極めて重要な働きをしていると考えられた。全身性強皮症などの自己免疫疾患においてもCD19の発現量・シグナル伝達の異常が存在する可能性が示唆された。

6.トコレチネート及びレチノイン酸のgel contractionに及ぼす効果

山田詠剛、水谷 仁、清水正之(三重大学皮膚科)

我々はトコレチネートの外用が強皮症皮膚の効果、肥厚炊″痕、ケロイドに有効であり、組織学的硬化改善を認めている。また、エトレチネート内服時皮膚が柔軟化するところから強皮症に有効との報告もある。これらの臨床的効果の機序解明のために線維芽細胞のコラーゲンゲル内培養系を用い、その収縮力に与える影響を検討した。トコレチネートは線維芽細胞の増殖には著明な影響を与えなかったが、用量依存性にコラーゲンゲルの収縮を抑制した。免疫組織学的に検索した、コラーゲンゲル内培養系内線維芽細胞のテネイシンの発現はコントロールでは認められなかったが、トコレチネートの強いテネイシンの発現誘導を示した。この効果は13-cis-retinoic acid、all trans-retinoic acidにおいても同様に認められた。レチノイド化合物が線維芽細胞による張力の抑制に有効であることが確認された。

IV. 臨床研究(口演7分、討論8分)

15:05〜18:05
座長:水谷 仁(三重大学皮膚科)(15:05〜16:20)
藤咲 敦(北海道大学第二内科)

1. 日本における強皮症の研究の現状と問題点

桑名正隆(慶應義塾大学先端医科学,内科)

強皮症に関するインパクトのある研究の多く(抗セントロメア、トポイソメラーゼI、RNAポリメラーゼI/III抗体の発見や強皮症皮膚線維芽細胞におけるTGF-βの役割など)は日本人によって発表されてきた。これら基礎的な研究成果に比べ、残念ながら日本からの価値ある強皮症の臨床研究は少ない。近年、欧米では大規模な強皮症のプロジェクト研究が進行し、強皮症の診断、病型、治療法などに国際的なガイドラインが確立されつつある。この機会に欧米と日本での強皮症の研究の相違点を認識し、日本の強皮症研究における問題点を検討する。

2. 抗トポイソメラーゼI(トポI)抗体陽性強皮症における臨床症状と自己抗体発現の民族差

桑名正隆,鏑木淳一,Frank C. Arnett1),Thomas A. Medsger, Jr2)(慶應義塾大学内科,University of Texas-Houston Health Science Center1),University of Pittsburgh2))

【対象】抗トポI抗体陽性強皮症117例(日本人43例、白人47例、黒人15例、アメリカインディアン 12例)。【結果】1)白人は日本人、黒人に比べて進行性肺線維症の頻度が少なく(P = 0.0003)、累積生存率も高かった(P = 0.03)。2) 抗トポI抗体の認識するエピトープや併存自己抗体、関連するHLAクラスII対立遺伝子は民族により異なっていた。3)多変量解析では、呼吸不全への進展と最も強く関連する因子として民族(P = 0.002)が抽出された。【結論】遺伝・環境因子を反映する民族性は強皮症の臨床症状と自己抗体の発現に強く影響を与える要因であった。

3.抗DNA topoisomerase ・(DNA topo ・) 抗体陽性強皮症における予後の変遷

鏑木淳一1、2、3)、桑名正隆3)、池田康夫3)(東京電力病院臨床検査科1)、東京電力病院内科2)、慶応義塾大学内科3))

[目的]抗DNA topo ・抗体陽性強皮症の予後、死因を明らかにする。[方法]本抗体陽性72例を初診年により3群(・1964年以降、・1975年以降、・1985年以降)に分類し、臨床経過を履歴的に調べた。[結果]・群では、累積生存率が最も良く、死因として、強皮症腎はなかった。末期における肺炎の起炎菌として、緑膿菌,MRSAが検出され、突然死を予知する因子として、不整脈が見出された。[結語]予後の変遷が明らかにされた。

4. 東京大学皮膚科における汎発性強皮症319例の総括

玉木毅、相馬良直(東京大学分院皮膚科)、也゙V徳仁、久保正英、藤本学、菊池かな子、玉置邦彦(東京大学皮膚科)

1966年から1997年の間に319例の汎発性強皮症患者が東京大学皮膚科を受診した。うち、男32例・女287例で男女比は1:9であった。初診時年齢は12歳から79歳まで分布し、50〜59歳にピークが見られた。バーネット分類・特異抗核抗体・主要所見等についてこれら319例を総括した。

5. 全身性強皮症患者におけるMCP-1, MIP-1α, および MIP-1βの血中濃度の検討

長谷川 稔、佐藤伸一、永岡徹也、高松由佳、竹原和彦 ( 金沢大学皮膚科)

全身性強皮症 (SSc) 患者58例における血清中のMCP-1,MIP-1α,MIP-1βの濃度をELISAにて測定した。MCP-1とMIP-1βは,SScでは健常人に比べて有意に高値を示した。MIP-1αはSScでは健常人よりも高率に検出されたが,有意ではなかった。MCP-1やMIP-1αが高値の患者では肺線維症が,MIP-1βが高値の患者では赤沈やIgGの上昇が高率に認められた。MCP-1,MIP-1α,MIP-1βがSScにおける肺線維症などの病態形成に関与している可能性が示唆された。

座長:石川 治(群馬大学皮膚科)(16:20〜18:05)
近藤啓文(北里大学内科)

6. 爪廓毛細血管顕微鏡所見の検討ーー全身性強皮症と皮膚筋炎患者との対比を中心に

前田 学、市橋直樹、高木 肇、北島康雄(岐阜大学皮膚科)

全身性強皮症と皮膚筋炎患者を対象に最近2年余に亙る爪廓毛細血管顕微鏡およびルーペを用いた観察から特に全身性強皮症患者の爪上皮に見られる出血巣は季節的な変動すなわち冬季に悪化して夏期に改善する傾向のあることが判明した。また詳細な問診の結果、全身性強皮症患者では出血巣は寒冷負荷や農耕や草取り等の手作業で出血巣の新生を促すことが明らかとなったが、こうした出血はかならずしも臨床的な悪化と相関しているとは言いがたい。一方では皮膚筋炎では病勢と相関して著明な出血が生じる例が多く、副腎皮質ホルモン剤投与後には急速に改善したことより、皮膚筋炎では副腎皮質ホルモン剤に対する血管の反応性は良好との印象を受けた。両者には外的因子に対する血管の反応性が異なる可能性が示唆された。

7. 肺病変を伴う全身性強皮症に対するPSL / CP 併用療法のまとめ

山中正義,石川 治,秋元幸子,田村敦志,宮地良樹(群馬大学皮膚科)

肺病変を伴う発症初期(2年以内)の全身性強皮症患者で、1年以上prednisolone( PSL ) / cyclophosphamide ( CP ) の投与を継続している4例について肺病変の推移を中心に検討した。症例は、全例女性で、4例中2例に炎症所見を伴っており、1年以上(17〜25カ月)経過した現在、炎症所見は2例とも改善、4例中3例に呼吸機能の改善を認めた。

8. 強皮症の間質性肺炎における血中肺surfactant protein A(SP-A)

鈴木修三、海瀬俊治、西間木友衛、粕先濆司(福島県立医科大学第二内科)

肺サーファクタント特異蛋白質のひとつであるSurfactant protein A (SP-A)は、特発性間質性肺炎や肺胞蛋白症で高値を示しそれらの活動性を反映する。今回、我々は、強皮症(SSc)の間質性肺炎(IP)における血中SP-AをEIA法で測定した。血清SP-A値はIP合併SScで高値を示していた。SScのIPにおいてSP-AはIPの活動性を評価する有用なマーカーになると考えられた。

9. 抗アネキシンV抗体と強皮症の指聹尖凋∞

杉浦一充、 室 慶直、 富田 靖 (名古屋大学皮膚科)

強皮症における抗アネキシンV抗体の存在並びにその臨床的意義について調べた。精製されたリコンビナントアネキシンV抗原を用いたELISA法(健常人20例における平均値+3SD以上を陽性とした)により66例について測定した結果、12例(18.2%)が陽性であった。強皮症の指聹尖凋∞の頻度は同抗体陽性者において陰性者と比べ有意に高く、同抗体は指聹尖凋∞のリスクファクターとなりうると思われた。

10. 全身性強皮症におけるHelicobacter pylori感染

也゙V徳仁、藤本 学、久保正英、尹 浩信、玉木 毅、菊池かな子、玉置邦彦(東京大学皮膚科)

全身性強皮症におけるHelicobacter pylori(H.pylori)感染の頻度を検討した。対象は全身性強皮症124例でH.pylori感染の診断はELISA法により、H.pyloriに対するIgG抗体価を測定。H.pylori感染は124例中69例(55.6%)にみられ、コントロール群と比較して有意に高率であった。さらにH.pylori感染と食道病変との間に相関が認められ、本症の食道病変におけるH.pyloriの関与が示唆された。

11. ANCA陽性強皮症腎クリーゼ11例の臨床的特徴

遠藤平仁(北里大学看護学部)、近藤啓文(北里大学内科)

抗好中球細胞質抗体(ANCA)を伴い、急速進行性糸球体腎炎を呈した強皮症自験11症例の臨床的特徴並びに治療、予後について検討した。10症例はP-ANCAを呈し、9症例は抗MPO抗体であった。全例、悪性高血圧、高血圧性眼底変化を認めず、4症例で肺出血を伴っていた。先行する発熱、多彩な自己抗体の出現、血小板減少を伴う症例が多かった。血漿交換療法、ステロイドホルモン剤大量投与、免疫抑制剤の投与を行った2症例は、ANCAの陰性、腎機能正常化を認めた。

V. 症例(口演5分、討論5分)

18:05〜18:45
座長:川口鎮司(東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター)
旗持 淳(千葉大学皮膚科)

1. 特異な臨床を呈した全身性強皮症(欠題)

五十嵐敦之、原田昭太郎(関東逓信病院皮膚科)

45歳、女。平成5年3月よりレイノー現象出現。その頃より顔面、頚部に掻痒の強い紅色丘疹の出没を繰り返す。平成6年11月当科来院時、強指症、NFB、背部の色素沈着、項部の髪際部の脱色素斑を認めるが、舌小体短縮、指尖部虫食い場″痕、手指屈曲拘縮はない。抗核抗体2560倍(nucleolar)。特異抗核抗体、抗DNA抗体は陰性。CH50は26.5Uと低値だがC3C、C4は正常。肺線維症なし。IgE3596 U/ml。前頚部の紅色丘疹の皮膚生検組織像では表皮肥厚と著明な真比П原線維の増生が認められた。

2. 気腹症を呈した強皮症の2例

稲田進一,中島亜矢子,諏訪 昭(都立大塚病院リウマチ膠原病科)

強皮症の稀な消化器病変を報告する。症例1:43才女性。1991年発症の限局型。1994年より腸閉塞を反復。1997年腹部膨満にて入院。気腹を認めるも、腹膜刺激症状、穿孔所見、腸管嚢腫様気腫(PCI)なし。絶食、中心静脈栄養にて軽快。症例2:58才女性。1984年発症のびまん型。腹部膨満を反復し、1997年入院。PCIと気腹を認めた。経口摂取を継続し、高濃度酸素療法、kanamycin経口投与などで軽快。PCI、気腹の発症機序について考察する。

3. 悪性リンパ腫により誘発されたと考えられた全身性強皮症

長谷川 稔,坂井秀彰,大橋武志,佐藤伸一,高田 実,竹原和彦 (金沢大学皮膚科)

43歳,男性。1ヶ月前より手指・前腕・胸部に皮膚硬化が出現。抗核抗体2560倍(H)。初診後,急速に頚部・胸部・背部に皮膚硬化と皮下の板状硬結が出現。頚部および背部の生検組織像では真皮中下層uП原線維の膨化増生と皮下および筋層内に大型の異型Tリンパ球の浸潤あり。強皮症とT細胞リンパ腫の合併と診断した。化学療法(CHOP) を開始後,リンパ腫の消退とともに皮膚硬化は急速に軽快。現在,リンパ腫の再発はなく,皮膚硬化は手指に限局している。

4. PSS sine sclerodermaの1例

山根謙一、尹 浩信、菊池かな子、玉置邦彦(東京大学皮膚科)

70歳女。10年前にRaynaud症状、5年前に胃部不快感が出現。胃部不快感の増悪とRaynaud症状を主訴に、当科受診。Raynaud症状、爪郭部出血点を認めるも、近位皮膚硬化、び漫性色素沈着、強指症、舌小体短縮、手指屈曲拘縮、虫喰い場″痕を認めず。抗核抗体陰性、抗細胞質抗体陽性、抗SS-A抗体陽性。前腕伸側の皮膚組織に真比П原線維の膨化、均質化を認めず。全身検索にて、肺線維症、逆流性食道炎、肺高血圧症を認めた。PSS sine sclerodermaと考えられた。

VI. クロージング・リマーク(10分)

18:45〜18:55
近藤啓文(北里大学内科)